F太さんとは、作品展示会でよく利用する画廊で知り合いました。開催される出展者やジャンルにかかわらず画廊には頻繁に顔を出し、気に入った展示作品を買ったりケーキやお菓子の差し入れをしたりする物静かで粋な人でした。

しかしある時期からF太さんはピタリと画廊に顔を出さなくなりました。親しくしていた人に聞いたところによると、新しく自分のお店を開いたため忙しいのだそうです。

1年ほど月日が経過したでしょうか。ある日、画廊で常連さんたちと雑談してると突然F太さんが現われた。「わぁ F太さん 久しぶり。どうしてたの?」「ああ・・・。バタバタしていて・・・。」

F太さんの表情がどこと無く暗いのを感じた。元々口数は少ない人だったけど、以前のあの人懐っこい笑顔もあまり見られない。少しだけ雑談をして、差し出されたホットコーヒーをおいしそうに飲み干すと「じゃぁ また。」と帰っていきました。常連さんの一人がボソッとつぶやきました。「あれ?どうしたのだろう。F太さん ちょっとおかしくなかった?」「うん ちょっとね。」

それ以来、F太さんが画廊に顔を出すことは二度とありませんでした。その後、風の便りに、F太さんのお店はある日廃業になって、そのままずっと空き家の状態になっているという話を聞きました。

最後に画廊で会った日。その日はめずらしくF太さんから私に話しかけてきました。「明日香さん。俺ね。自分のことを今までずっとスーパーマンだと思ってきたんだ。俺には誰にも負けない底力があったから、どんな時にも何をやっても必ずうまく行った。そしてずっとそのことを疑わなかった。まさかこんな状況に・・。」

その日、私はF太さんのエネルギーを感じ取り何かを話したのだけど、内容についてはもう覚えていません。話を聞きながらしんみりして何度もうなずいていたF太さんの姿を今でも思い出します。あれから長い月日が経つけどF太さん元気にしているのだろうか・・・。まさかこのブログは読んでいないだろうけど、ぜひ又、一度会ってみたい。そしてひと言だけ確認したいことがあるんです。同じ体験をしたことのある一人の先輩として。

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